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生成AIを活用した財務リスク検知の実践

9月27日
読了時間: 19分

銀行データを用いたPoCで、流動性リスク・余剰資金・不自然な支払の検知可能性を検証




キャッシュマネジメント研究所では、生成AIをキャッシュマネジメントや財務リスク管理にどのように活用できるか、実際のデータ分析を通じた検証を進めている。


今回はその一環として、銀行データを用いて、生成AIが企業グループの財務リスクを検知・分析できるかPoCを行った。



1. 生成AIは財務リスク管理に役立つか?


財務・経理分野における生成AIの活用が進んでいる。


ひと昔前までは、文章作成、要約、情報検索などで利用されることが多かったが、最近では、経費精算、契約書確認、会計処理、財務分析、リスク管理など、専門知識を必要とする業務にも活用範囲が広がっている。


大企業では、財務・経理部門だけでなく、IT部門や外部ベンダーも関与し、既存システムとの連携、業務プロセスの見直し、データ整備、内部統制の設計まで含めてAIを導入する事例も見られる。品質や統制が重視される財務・経理業務にAIを本格導入するのであれば、こうした体制整備は欠かせない。


一方で、生成AIの活用がすべて大規模なシステム導入を必要とするわけではない。


業務の性質によっては、財務担当者自身が手元のデータをAIに読み込ませ、分析の目的や着眼点を伝え、その結果を業務改善に活用することも可能になってきている。


その一例が、銀行データを用いた財務リスク検知である。


本記事では、まず財務・経理分野における生成AIの公開事例を確認したうえで、財務担当者自身が比較的取り組みやすい活用例として、筆者が実施した銀行データを用いた財務リスク検知のPoCを紹介する。



2. 財務・経理の専門業務に広がる生成AI活用


財務・経理分野では、すでに専門業務への生成AI活用も始まっている。


KDDIは、グループ会社で発生した不正取引を受けたガバナンス強化策として、財務3表の確認を強化するとともに、AIによる財務データのアラート機能や与信チェック機能を順次導入する方針を公表している。2026年5月の決算説明資料では「AIによる財務データのアラート機能や与信チェック機能を27.3期上期から順次導入」としている。


【リンク設定】

KDDI「2026年3月期 決算説明資料」



味の素フィナンシャル・ソリューションズでは、経費精算の確認、承認、差戻し判断を行う「経理AIエージェント」を本番稼働させている。


同社の特徴は、LLMに判断をそのまま委ねるのではなく、経理・財務領域の業務ロジック、会計・税務知識、社内規程などを組み合わせている点にある。同社の検証では、LLM単体の正答率53.3%に対し、経理AIエージェントでは93.3%となった。


【リンク設定】

味の素フィナンシャル・ソリューションズ「経理AIエージェントが本番稼働」



JBCCグループでは、新リース会計基準への対応に生成AIを利用し、契約書1件当たり約3時間を要していた確認作業を約2分に短縮している。


ここではリース判定業務を分解し、AIが担う工程と人が担う工程を明確にしている。また、AIの参照対象を新リース会計基準に限定し、最終判断を人が行うことを前提として内部統制を設計している。


【リンク設定】

JBCC「隠れリース判定AI」で新リース会計基準に対応



これらの事例から、財務・経理における生成AI活用は、一般的な文書作成や情報検索を超え、専門的な業務処理や分析へと進んでいることが分かる。



3. 高い品質を要求される業務では運用設計が重要となる


一方、こうした事例は、生成AIを導入すれば直ちに業務を自動化できることを意味するものではない。


財務・経理では、誤った処理が財務諸表、税務、支払、資金管理などに直接影響する。


そのため、品質要求の高い業務では、


・AIが参照する情報

・判断ルール

・例外処理

・精度検証

・人による確認

・内部統制


などを含めた運用設計が必要になる。


先に挙げた大企業の事例でも、単に高性能な生成AIを導入するのではなく、業務ルールの整理、AIが担当する範囲の限定、精度検証、人による確認などに相応の体制と工数を投入している。


したがって、財務・経理業務のすべてを汎用生成AIにそのまま任せられる段階には、まだ達していない。



4. AI活用に適した業務の考え方


しかし、財務・経理におけるAI活用を、前述の事例のような本格的なシステム導入だけで考える必要はない。


現在の生成AIには、データを読み込み、集計し、必要に応じてPythonなどのコードを自動で作成・実行し、その結果を比較しながら追加分析を行う能力が備わってきている。


そのため、単純な集計や定型的な分析にとどまらず、業務の目的や背景を踏まえなければできないような、より複雑な分析についても、生成AIが主体的に進められるようになってきた。


定型業務の自動化ではなく、分析業務への活用に限れば、必ずしも全社的なAI導入プロジェクトを立ち上げる必要はない。財務担当者自身が手元のデータをAIに読み込ませ、分析の目的や着眼点を伝えることで、AIに分析を任せることが可能になっている。


ここで重要なのが、AIに適した業務を選ぶことである。


例えば、税額の確定、決算数値の確定、振込実行などは、誤りを許容しにくい。


一方、


・「人が見落としていたリスクを発見した」

・「大量のデータから確認すべき対象を絞り込んだ」

・「従来は十分に分析できなかったデータから、新たな傾向を発見した」


というように、AIを使うことで従来より多くの情報や気付きが得られる業務もある。


筆者は、このような業務を「加点評価できる業務」と考えている。財務リスク検知は、その代表例である。


財務リスク検知におけるAIの役割は、与えられた財務データからリスクの兆候を検知し、その要因を分析・報告することで、財務担当者のリスク対応を支援することである。


AIが示した候補のすべてが、実際の問題である必要はない。これまで人が十分に確認できなかった大量のデータから、新たなリスクや兆候を発見できれば、その分だけ財務管理の質を高めることができる。



5. 生成AIの進化と財務データ分析への適用可能性


筆者は生成AIが普及する以前から、機械学習などの統計的手法を使って、財務リスクを検知するソリューションを開発していた。


当時は、リスクの種類ごとに適切な統計手法や機械学習アルゴリズムを選び、R言語やPythonで個別にモデルを開発する必要があった。


ひとつのリスクを実用的に検知するだけでも数か月を要することがあり、統計分析やプログラミングに詳しいデータサイエンティストも必要だった。


このため、機械学習を財務リスク管理に活用することには期待していたものの、開発コスト、期間、人材の面で限界もあった。


生成AIが登場した当初も、大量データの処理や分析手法の選択には限界があり、筆者自身、財務リスク分析への利用にはそれほど大きな期待をしていなかった。


ところが、その後の生成AIの進化によって見方が変わってきた。


現在では、生成AIがデータの特徴を確認し、必要な分析を考え、Pythonなどのコードを作成・実行し、分析結果を見ながら追加の分析を行うことができる。


もちろん、AIが常に適切な分析方法を選ぶわけではない。


しかし、従来はデータサイエンティストが担っていた分析工程の相当部分を生成AIが支援できるようになったことで、財務データ分析の利用範囲は大きく広がりつつある。



6. キャッシュマネジメントにおける分析高度化の課題


特に筆者の専門であるキャッシュマネジメントでは、長年「資金の見える化」が重要だと言われてきた。


大企業はCMS(キャッシュマネジメントシステム)やTMS(トレジャリー・マネジメント・システム)を導入し、グループ各社の銀行残高や資金移動を把握するための基盤を構築してきた。


しかし、資金が見えるようになれば、それだけで財務管理が高度化するわけではない。


実際の財務部門では、日々の資金繰り、支払、入金確認、銀行対応、資金移動など、多くの定型業務がある。


そのため、


・「なぜこの会社の資金が減少しているのか」

・「なぜこの会社には余剰資金が滞留しているのか」

・「別の会社で資金需要が高まっている一方、グループ内の余剰資金を有効に活用できているか」

・「この資金移動は通常の動きなのか」


といった分析まで十分に手がまわらないことがある。


高額なCMSやTMSを導入して大量のデータを集めても、それを分析する人的余力が不足していれば、データの価値を十分に引き出すことはできない。


ここに生成AIを活用する意義がある。


これまで多くの企業では、「資金を見える化する」こと自体が目標になりがちであった。しかし、資金の見える化はあくまで手段であって、目的ではない。


本来の目的は、資金の動きを継続的に分析し、そこから把握されるさまざまな財務リスクに適時・適切に対処することにある。



7. 銀行データを用いた財務リスク検知PoC


そこで今回、その第一歩として、銀行データを用いた財務リスク検知のPoCを行った。


対象は、親会社1社と子会社3社からなる4社の企業グループである。親会社がグループ全体の資金を管理し、子会社との間ではキャッシュプーリングによる資金移動が行われているという前提とした。


AIには、1年間の銀行取引データに加えて、各口座がどの会社に属するか、口座の用途、キャッシュプーリングの対象かどうか、目標残高などの基本的な口座情報を与えた。


これにより、単に入出金額を見るだけでなく、それぞれの口座がグループ資金管理上どのような役割を持つかを踏まえて分析できるようにした。


本PoCの目的は、生成AIが企業グループの大量の銀行データを、人間の分析担当者による個別の指示や介入なしに分析し、その中から資金管理上の主要なリスクや問題の兆候を発見できるかを検証することである。


具体的には、以下のリスクを検知できるかを確認した。


① 流動性リスク

 入金減少や支払増加による資金余力の低下など


② 余剰資金の滞留や資金偏在などの資金効率上の問題


③ 通常とは異なる不自然な支払取引





A社=資金不足

B社=余剰資金

C社=不自然な支払

を表した3分割の図をここに挿入



なお、AIには、どの会社にどのリスクが存在するかという「正解」は与えていない。



A社:流動性リスク


A社では、年度後半に外部からの入金が減少する一方で支払が増え、外部キャッシュフローが悪化する。


その結果、親会社からの資金供給への依存が高まる。


単に残高が少ないというだけではなく、時間の経過とともに資金状態が悪化していることを検知できるかを確認した。



B社:余剰資金および資金集中上の課題


B社では、利用可能な余剰資金があるにもかかわらず、その一部がプーリング対象外の銀行口座に置かれ、親会社へ資金集中されずに滞留する状態を設定した。


一方でA社では資金需要が高まっている。


したがって、B社単体ではなくグループ全体で、


「一方では資金需要が増加し、他方では活用可能な資金が滞留している」


という資金効率上の問題を分析できるかを確認した。



C社:不自然な支払取引


C社には、通常の取引パターンとは異なる振込を設定した。


新しい振込先、反復・分割された支払、金額の特徴など、複数の要素を持たせた。


ここでAIに求めたのは「不正」と断定することではない。


通常とは異なる取引として抽出し、人が確認すべき対象として提示できるかを確認した。


親会社:正常な資金移動


一方、親会社では正常なキャッシュプーリングにより営業用口座からプーリングの統括口座へ大きな資金移動や残高変化を発生させた。


単に金額が大きい、残高が変化したという理由だけで異常として報告すると、実務では大量の不要なアラートが発生する。


正常な資金管理を異常として報告しないことも、今回の評価項目とした。



8. GPT・Gemini・Claudeによる比較検証


PoCでは、同じ銀行データと企業・口座情報を用い、共通の分析方針に基づいて、3つの生成AIによる財務リスク分析を行った。


使用したのは、


・GPT-5.6 Sol(ChatGPT有料版)

・Gemini 3.6 Flash(無料枠)

・Claude Opus 5.5(Claude Code有料契約)


である。


なお、検証の過程では分析結果を踏まえてプロンプトの改善も行っているため、完全に同一条件で各モデルの性能を比較したベンチマークではない。また、各社の最新・最上位モデルをそろえた比較でもない。


Gemini 3.6 Flashは、高速性と低コストを重視しながら、コード実行や推論にも対応するモデルとして提供されている。



Google「Gemini 3.6 Flash」公式仕様


Claude Opus 5.5は、Anthropicが2026年9月に公開したOpus系モデルで、Claude Codeでも利用できる。


Anthropic「Claude Opus 5.5」



今回の目的はモデル間の性能順位を決めることではなく、異なる生成AIを利用しても、同様の財務リスク分析が成立するかを確認することにある。



9. 主要リスクの検知結果


結果として、GPT、Gemini、Claudeの3つとも、今回設定した主要なリスクを検知することができた。


A社の流動性悪化、B社の余剰資金の滞留および資金集中上の課題、C社の不自然な支払について、それぞれ銀行データから問題の兆候を抽出した。


特定のAIだけが正解にたどり着いたのではなく、異なる3つの生成AIが、正解を知らされない状態から主要なリスクを発見できたことは、今回のPoCにおける重要な結果である。



10. 各AIの分析特性


一方、分析内容には違いも見られた。


GPTは、検知したリスクと根拠データとの関係を整理し、分析結果を構造的にまとめる点で安定していた。


Geminiも主要なリスクを捉えることができた。Flashモデルでも今回のような財務分析が可能であったことは、一つの示唆である。


今回、考察の深さという点で一歩進んでいたのはClaude Opus 5.5だった。


例えばA社について、単に「資金が減少している」「資金不足の傾向がある」と指摘するだけではなく、外部からの入金減少と支払増加を捉え、その結果として外部キャッシュフローが悪化し、親会社からの資金供給への依存が高まっていることまで関連付けて分析した。


さらに、入金減少の原因を取引先別に掘り下げ、上位3得意先からの入金減少が大きい一方、その他の得意先では同様の傾向が見られないことまで特定した。


このように、表面的な残高変化の検知にとどまらず、その背景にある要因を段階的に掘り下げていった点に、Claudeの分析の深さが表れていた。



ただし、どのAIにも確認が不要な事象を候補として挙げる場合があり、最終的には財務担当者による確認が必要である。



11. モデル性能の進化と今後の分析可能性


今回の結果だけを見れば、考察面ではClaude Opus 5.5が一歩進んでいた。


しかし、生成AIをめぐる開発競争は激しく、各モデルの性能も急速に向上している。


この優劣が固定的なものとは考えていない。


例えばOpenAIは2026年9月、GPT-6 Astraを発表した。同社はAstraを、複雑な推論や専門業務を含む難度の高い作業を担うモデルとして位置付けている。


GPT-6 Astraでは、複雑な推論やデータ分析能力がさらに向上している。最大105万トークンの長いコンテキストを扱え、多段階の推論やコード実行を伴う分析にも対応する。


大量の取引データから複数の兆候を組み合わせてリスクを発見する今回のような分析では、こうした能力の向上が、財務リスクの検知や原因分析のさらなる高度化につながる可能性がある。


さらに、推論能力やデータ分析能力が今後向上すれば、より複雑な因果関係を踏まえた財務リスク分析が可能になると考えられる。


本PoCから得られた重要な示唆は、


「どの生成AIが最も優れているかということではなく、複数の代表的な生成AIで、すでに一定水準の財務リスク分析が可能になっている」


という点にある。



12. 生成AIによって実現する財務部門主導のリスク管理


本来、財務担当者が担うべき重要な役割の一つは、財務リスクの兆候を早期に捉え、原因を分析し、問題が深刻化する前に対策を講じることである。


しかし、大量のデータからリスクの兆候を継続的に見つけ出すには、これまで統計や機械学習に詳しいデータサイエンティストの支援を受け、分析モデルを開発する必要があった。


生成AIの進化によって、この状況は変わりつつある。


今回のPoCでは、財務担当者が分析の目的や着眼点を定め、銀行データや口座情報を生成AIに与えることで、大量のデータからリスクの兆候を抽出し、その背景や原因まで分析できることを確認した。


最終的な判断と対策は財務担当者が行うため、このような活用は財務部門が主体となって進めることができる。


経費精算や会計処理などの定型業務を生成AIに継続的に処理させる場合には、高い精度と安定性が求められ、システム連携、セキュリティ、精度管理、内部統制などを含めた運用体制の整備が必要となる。


これに対して、今回のような財務リスク分析であれば、最初から大規模なAI基盤や全社的なシステムを構築する必要はない。財務部門が保有するデータと生成AIを活用し、リスクを早期に発見して先制的な対策につなげるところから始めることができる。


生成AIの活用は、財務担当者が本来担うべきリスクの早期発見と先制対応を、財務部門自身で実践するための手段になり得る。


これは企業規模の問題ではない。


大企業であっても全社的なシステム化に先立つ業務部門のPoCとして活用でき、中堅・中小企業にとっては、大規模投資を行わずに財務分析を高度化する一つの方法となり得る。


生成AIによって、財務担当者自身がデータ分析を行える範囲が広がっているのである。



13. プロンプト設計の重要性


ただし、銀行データを生成AIに渡すだけで、今回のような分析結果が得られるわけではない。


本PoCでは、


・どのような財務リスクを確認するのか

・どのような視点から分析するのか

・どのような事象は深掘りするのか

・どのような正常事象は報告対象外とするのか

・財務担当者が確認・判断・対処すべきものをどのように絞り込むか


といった分析方針を定義した共通プロンプトを作成した。


そして、同じプロンプトを3つのAIに与えて比較した。


プロンプトがなければ、AIが何を重要と判断し、どこまでを報告すべきかは定まらない。


例えば、大きな資金移動をすべて異常と判断させれば、正常なキャッシュプーリングまで大量に報告される。


逆に、報告条件を厳しくしすぎれば、重要なリスクを見逃す。


したがって、AIモデルの性能だけでなく、


「何をリスクとして検知させ、何を報告対象外とするか」


という財務業務側の設計が、分析結果を大きく左右する。



14. プロンプト改善と分析対象データの拡張


財務リスク検知のプロンプトは、一度作成すれば完成するものではない。


実際の分析結果を確認しながら、過検知や見逃しを検証し、改善していく必要がある。


例えば流動性リスクの検知精度を高めるのであれば、資金不足に至る兆候や確認する指標を追加する。


不自然な支払をより深く分析するのであれば、取引先、頻度、金額、時系列、過去取引との差異などの観点を追加する。


一方、分析対象そのものを広げるためには、銀行データ以外の情報も必要になる。


例えば、


・会計データ

・売掛金・買掛金

・支払条件(支払サイトなど)

・請求・支払予定

・借入金、金利

・予算・実績

・資金繰り予測

・与信情報

・承認情報

・契約情報


などを加えれば、分析できる財務リスクの範囲も広がる。


AIは単なる資金不足や不自然な支払だけでなく、売掛金の回収遅延、支払条件の悪化、買掛金の偏り、借入依存度の上昇、金利上昇による利払負担、予算・資金繰り予測からの乖離、取引先の信用悪化、承認ルール違反なども検知できる。


さらに、銀行取引と会計・債権債務・予算・承認情報を突き合わせることで、「何が起きたか」だけでなく、「どの取引先・部門・取引条件が原因か」「今後どの程度資金不足が拡大するか」「どの施策を優先すべきか」まで分析を深めることが可能になる。


例えば、顧客との契約書をPDFでAIに読み込ませれば、契約条件に基づいて請求タイミングや将来のキャッシュフロー予定を計算することができる。


さらに、実際の請求データや入金予定と照合することで、請求漏れや請求遅延を検知し、それに伴う入金予定時期のずれを把握して、資金繰り予測を修正することも可能になる。


AIは、数値データの処理だけでなく、契約書などのテキストを読み、その内容を理解する能力にも優れている。そのため、ERPなどの基幹システムに登録された定型データだけでは捉えにくいリスクについても、検知できる可能性がある。


筆者も過去に、契約書データをもとに請求時期やキャッシュフローを予測する実験を行ったことがある。当時は完璧とはいえなかったものの、一定の成果を得ることができた。それから生成AIの能力は大きく進化しており、現在では、より実務に近い形で活用できる可能性が高まっている。


このように、分析対象となるデータを広げ、プロンプトを改善・拡張していくことで、財務リスク分析を段階的に高度化していくことができる。


最初から完璧な仕組みを目指す必要はない。まずはAIが得意とする領域から活用を始め、その結果を検証しながら、対象データや分析範囲を少しずつ広げていくことが重要である。



15. AIで「見える化」から真の財務リスク管理へ


これまでキャッシュマネジメントでは、企業グループの資金を集め、「見える化」するための仕組みづくりに多くの投資が行われてきた。


もちろん、その基盤は今後も重要である。


しかし、資金を見えるようにしただけでは、リスク管理にはならない。大量の銀行データから異常の兆候を見つけ、その原因を分析し、必要な対応につなげて初めて「管理」といえる。


これまで、この部分が十分に機能しない企業も少なくなかった。その大きな要因は、データの不足ではなく、財務担当者に大量のデータを継続的に分析するためのスキルや時間的余力が十分になかったことにある。


その結果、せっかく資金を見えるようにしても、残高や資金繰りを確認するだけで終わり、「見える化」が形骸化してしまうこともあった。


生成AIの進化は、この課題を変えつつある。


大量の銀行データの中から、資金不足、余剰資金、資金偏在、不自然な取引などの兆候を探し、その原因を掘り下げ、人が確認すべき対象を絞り込む。


これまで人の分析力と時間に依存していた作業の一部を、AIに任せられるようになってきた。


このような利用方法であれば、最初から大規模なAIシステムを構築する必要はない。


まずは業務担当者が、手元にあるデータを使って分析を始める。効果が確認できれば、対象データを広げ、プロンプトを改善し、必要に応じてシステム化していけばよい。


財務・経理における生成AI活用は、大規模なシステム導入だけではない。


「業務担当者が、自らの専門知識と手元のデータを使い、これまで十分にできなかった分析をAIとともに行う。」


これまで「見える化」の先に進めなかった理由の一つである、分析スキルと分析余力の制約が解消されつつある。


ようやく、蓄積されたデータをリスクの発見と対応につなげる、本来の意味での財務リスク管理が現実的になってきたと考えている。



16. PoC結果および財務リスク検知プロンプトの公開


今回のPoCでは、テスト用に作成した銀行データを利用している。


今後、今回使用した財務リスク検知プロンプトのサンプルを含め、PoCの詳細結果を公開する予定である。


内容としては、


・PoCの前提条件

・リスクシナリオ

・テスト用銀行データの構成

・財務リスク検知プロンプト

・GPT、Gemini、Claudeの分析結果

・3つのAIの分析内容の比較

・過検知を抑えるための考え方

・プロンプト改善のポイント


などを予定している。


単なる生成AIの操作方法ではなく、


「銀行データをどのようにAIに与え、財務のどのような知識をプロンプトに組み込み、どのようにリスクを発見するのか。」


その具体的な検証事例として公開したいと考えている。



【問い合わせ】

財務リスク検知・生成AI活用に関するご相談


キャッシュマネジメント、財務リスク検知、生成AIを活用した財務分析について、ご相談がございましたら、キャッシュマネジメント研究所までお問い合わせください。




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